和歌山・南紀白浜の海沿いに突如現れる、まるで中世ヨーロッパの城郭のような「ホテル川久」。
1991年、当時の総工費約400億円を投じてたった2年という短期間で建てられたこのホテルは、建築界のノーベル賞とも称される「村野藤吾賞」を受賞した、まさに“泊まれる美術館”です。
今回私は、館内を巡り解説を聞くことができる「ミュージアムツアー」に参加してきました!

ミュージアムツアーは1日2回開催、20~30分間なのですが、わたしが参加した回は、なんと50分間でした!たくさんお話しして下さり感謝✨
本記事では、実際にツアーで学んだ世界の巨匠や職人たちが集結して造り上げた建築の凄みや、館内に並ぶ本物のアート作品の数々を詳しくレポートします。
この記事でわかること
- ミュージアムツアーで語られる川久誕生の秘話
- ギネス世界記録™に認定されたエントランスの「金箔天井」の秘密
- 1本1億円以上とも言われる世界唯一の青い柱「シュトックマルモ」の技法
- 床のローマンモザイクやイタリア人職人による手仕事の結晶
- ダリ、シャガール、横山大観などの本物のアート作品の見所
ミュージアムツアーで明かされる秘話
ホテル川久は、1階のロビーと2階の展示スペースが『川久ミュージアム』として一般開放されています。
宿泊者は無料ですが、宿泊しない方も、入場料を払って美術館として入場することが可能なんです。
入場料
一般:1000円(税込)
高校生・大学生:800円(税込)
中学生以下:無料
※一般入場は10:30~18:00
ミュージアムツアーに参加してみた
川久ミュージアムでは、14時と16時に無料のミュージアムツアーが開催され、ホテルのスタッフの方がミュージアムを案内してくれます。
今回私たちを50分のツアーに案内して下さったのは、ホテル川久の創業時(直前)からオープニングスタッフとして勤務されていたというベテランスタッフの方。
まさに川久の歴史と共に歩み、「生きた語り部」とも言えるような方から、創業秘話など、パンフレット等には載っていない裏話をたくさん聞かせていただきました。
本当に熱く、色々なことを語ってくださって、面白かったです!
そんな現地でしか聞けないお話も、このブログではちらっとご紹介します。
旅館「河久」からホテル「川久」へ
元々、大正終わり頃に大阪船場の商人・河内屋久兵衛氏が創業した老舗旅館「河久」。
ここは、1971年の黒潮国体の際に天皇陛下もご宿泊された格式の高い旅館でした。
昭和初期に新婚旅行で訪れた安間千之氏(後の川久オーナー)がその魅力に惚れ込み、継がせてほしいと言って頭金を置いていったのだそうです。
最初は断っていた河内屋久兵衛氏。
しかし、太平洋戦争が始まると、当時の最高級旅館であった「河久」は陸軍によって接収され、軍の施設として使用され、終戦直後の1946年(昭和21年)に発生した昭和南海地震による津波被害に遭いました。
軍の使用と津波被害で旅館の建物がボロボロに傷んでしまったことを機に、1949年安間千之氏に経営を託すことを決断したそうです。
その時に「河久」から「川久」へと改名されました。

このとき、縦に並べて温泉マークのようなロゴも作ったみたいです!
キーパーソンは「マダム堀」
ここから、ホテル川久が現在の宮殿のように生まれ変わったのは、「マダム堀」と呼ばれる安間千之氏の長女、堀 資永(ほり やすえ)さん(ご結婚されて苗字が違う)の、圧倒的な美意識と凄まじい執念によるものだったそうですね。
そもそも、この川久の建て替え工事は、工期2年間で予算60億円と設定されていたようです。
しかし、マダム堀の手にかかり、総工費400億円の豪華宮殿ホテルになったそうです。
というのも、マダム堀は海外留学に出る日本人が年間4人しかいないような時代に、その一人(女性は彼女だけ!)として単身海外に渡るようなアグレッシブな女性で、世界中のありとあらゆる美に精通し、インターネットなどない時代において、どこで何が手に入るのかなどの情報も多く持っていたそうです。
中国政府からも断られている紫禁城の「瑠璃瓦」を手に入れるため、20回以上も現地へ直談判に赴き、自分の熱い想いを「漢詩」にして送って国を動かし、歴史上初めて日本への輸出・使用が特別に許可されたエピソードなど、マダム堀の規格外の知性と行動力が垣間見える話をたくさん聞かせていただきました。

ゼネコンを使わず建てた城
通常、これほどの大規模施工は大手ゼネコンへ一任するのが一般的です。
しかし、マダム堀は上記の「瑠璃瓦」と同様に、世界中を飛び回って直接一流の職人やアーティストを口説き落とし、契約を結びました。
フランスの人間国宝による天井金箔貼り、左官の巨匠・久住章氏による1本1億円の疑似大理石の柱(シュトックマルモ)など、職人たちの匠の技を極限まで引き出しました。
しかも、工期がたった2年だったことにも驚かされます。

パンフレットには載っていない、マダム堀や設計者の永田祐三氏の細かいやり取り、人となりなど、面白いお話を聞かせていただけるのは、ミュージアムツアーならでは!
【建築美】世界中の匠の技が集結した超ド級のロビー空間

一歩足を踏み入れた瞬間、誰もがそのスケールと圧倒的な美しさに言葉を失うエントランス!
エジプトの宮殿をイメージして作られたのだそうです。
ここからは、その匠の技術を少しだけご紹介します。
ギネス世界記録™認定!22.5金の輝く「金箔天井」
ロビーを見上げると広がるのは、黄金に輝く広大な天井。
これはフランスの人間国宝級職人ファブリス・ゴアール氏の手によって、フランス製22.5金の金箔が約19万枚も手作業で貼り付けられたものです。
「最大の連続して金箔押しされた天井(表面積1,056.97㎡)」としてギネス世界記録™に認定されており、時間帯や光の入り方によって異なる神秘的な表情を見せてくれます。
24金ではなく、あえて22.5金にしているのも、この輝きを出すためなのだそうです。

ちなみにファブリス・ゴアール氏は、フランスのベルサイユ宮殿の修復にも携わった方です。そういうレベルの方々の作品が集結したのが、ホテル川久!
1本1億円!?青く輝く「シュトックマルモの柱」
金箔天井を支えるのは、碧く美しい24本の丸柱です。
一見すると天然の大理石のように見えますが、実は日本の伝説的左官職人・久住章氏がドイツに渡って習得した擬石技法「シュトックマルモ」で仕上げられた人工大理石。
石膏や石粉、色素を極秘の比率で練り上げ、手作業で磨き上げられたこの蒼い円柱群は、技術的にも再現不可能と言われる世界唯一無二の芸術品です。
触れるとじんわりと温かみが伝わってきます。

イタリア職人が手作業で埋め込んだ「ローマンモザイクタイル」
足元に目を向けると、精巧な絵柄を描く床のローマンモザイクタイルが広がります。
イタリア・フリウリ地方のモザイク職人たちが一石ずつ手作業で床に埋め込んだもので、歩くこと自体が美術品の上を散策しているような贅沢さを味わえます。
色をモノトーンにしているのは、「主役はここを歩くお客様」という意味だそうです。

【アート】名画と彫刻に囲まれる贅沢な館内ギャラリー
ホテル川久は、ロビーだけでなく廊下や宴会場、展示室に至るまで本格的なファインアートがさりげなく配置されています。
巨匠たちの名画(サルバドール・ダリ、シャガール、横山大観)

2階の回廊やギャラリーには、サルバドール・ダリの珍しい版画や作品、マルク・シャガール、さらには横山大観や中尾淳などの日本画の巨匠による作品がズラリと並んでいます。
普通の美術館と違って「ガラス越しではなく間近で肉眼で観察できる」のがホテル川久ならではの醍醐味です。

この一松柄の壁は陶板でできていて、スタッフ通路の扉はフランスのだまし絵画家に描かせたそうで、当初はスタッフが扉を見つけられず困ったのだそうです!そして今は少し分かるように描きなおされたというエピソードも
ヘンリー・ムーアの胎内のような展示室

ドイツの照明家がデザインした幻想的な小部屋には、20世紀を代表する彫刻家ヘンリー・ムーアの「母と子」の作品の数々が鎮座しています。
静寂に包まれた空間で、アートと光が織りなす空間美を堪能できます。
値段が付けられない、ビザンチンモザイク

シリアで発見された、2世紀ごろに制作されたというモザイク画。
ニューヨークのメトロポリタン美術館で鑑定された4枚を、マダム堀が発掘者の女性と意気投合してプレゼントとして贈られたそうです!
この4枚は、ロビーラウンジとエレベーターホールに2枚づつ飾られています。
なんと、フランスのルーブル美術館にも、これと同様のシリア産モザイク画が収蔵されていると言われています。そのくらい価値の高いモノなのですね!

初対面で「あなたと私は3000年前に出会っている」という言葉を交わしたとか?そんなぶっ飛びエピソードも聞かせていただききました。
天井から床まで豪華すぎる洋宴会場

マイクが無くても声が響き渡る設計の洋宴会場。
天井はジョルジオ・チェルベッティ氏による「愛と自由と平和」をテーマにしたスクラッチアート。4層に塗った塗料を削って絵を描いていくのだそうです。
そして、この下地を塗ったのが、シュトックマルモの柱を手掛けた伝説的左官職人・久住章氏。
更に、この寄木細工で作られた床は、フランスの木工職人ジル・ゴベール氏の作品です。

ジル・ゴベール氏の寄木細工は、エレベーターの床などにも見られますよ!これらは川久アートの本の一角。まだまだご紹介したいことはありますが、ぜひご自身の耳で聞いて、実際に目で見てみて欲しいです♡
ミュージアムツアーに参加して分かった「見学のコツ」
宿泊者ならぜひ参加(または見学)してほしいミュージアムツアー。
ただ眺めるだけでは通り過ぎてしまう細部の「建築のこだわり」や「秘められたストーリー」をスタッフの方が余すことなく解説してくれます。
「本物のアートや建築に触れたい」という大人世代にとって、これほど贅沢で知的な滞在ができる場所は日本国内でも他にないのではないでしょうか。
ただ、贅沢なだけではない。
「100年後、200年後に世界遺産になるような建物を作りたい」そのような、創業者の夢やロマンが詰まった、素晴らしい空間でした。
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総工費400億円の宮殿ホテル「ホテル川久」は、写真や画面越しでは伝えきれない圧倒的な本物のスケール感があります。
実際に宿泊して、夜の静かなロビーで金箔天井を独り占めする体験は一生の思い出になります。
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